hekiyou連載
Vol.5「舞踊家・振付家としての活動~ダンスカンパニー&自主・招待公演~」

Vol.5「舞踊家・振付家としての活動~ダンスカンパニー&自主・招待公演~」

 ブロックポート留学中に出会った70過ぎの二人のベテラン講師はラバンの専門家であり、彼らとの活動の中で、感覚だけでなく、LMAを軸に動きを「思考する」世界を知った。その結果、振付、指導、パフォーマンス、自分自身の運動の癖などにおいて、目指すところや改善し得る部分が明確に見えてきた。また、それぞれの活動の中での学びは相互に影響する為、私がこれまで関わってきたパフォーマンスの数々も、大きな学び・研究の場となっている。

 写真1は、私が所属しているダンスカンパニー(Geomantics Dance Theater)のディレクターRichard Haismaと共同振付(2012年)をして、これまで、日本、アメリカ、ヨーロッパ諸国で、計30回以上踊ってきたソロ作品「Attempting Meditation」である。振付の過程は、言葉と身体の会話のようだった。コンセプトはRichardが考え、私に言葉を投げかけていく。例えば、"次の瞬間は地面に尋ねるのだ、なぜだ、なぜだ・・・と・・"、それに従い私は思うままに身体を動かす。動きが彼のイメージと合わさったとき、"それだー!"と言葉が飛んでくる。この繰り返しで、序々にダンスが出来上がっていった。Richardは私の尊敬する教師の一人である。自分のイメージをダンサーに押し付けず、表したい世界観がどのような動きから生まれるのか、彼の中で思考を繰り返し、その概念を、そして具体的な動きの特徴を言葉でダンサーに伝えていく。ラバンの専門家(CMA: Certified Movement Analyst)ならではの、動きを言語化する力を駆使している。従って、彼が振付してそれを真似るのではなく、与えられた概念の中でダンサーの身体から生まれてくる動きが連なって、ダンスとなっている。よって、「Attempting Meditation」は、私の動きの特徴を最大限に生かした作品となった。彼の、ダンサーの中から生まれてくる動きを大切にし、しかもあらゆる動きにチャレンジし続けるアプローチは、私が彼のカンパニーでダンサーとして働き続けることができた、最大の要因だったと思う。

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写真1:「Attempting Meditation」2012

 もうひとつ、この作品に纏わる笑い話を紹介したい。次のリンクは、Rochester, NYで踊ったときの批評である。Rochester Fringe Festival, Day 4: Day of Dance, Rochester Contemporary Dance Collective reviews  こちらに、橋本の"息遣いが加速"、また"バランスを保つ為に腕や身体が痙攣していた"と書かれ、非常に良い評価に繋がっているが、踊っている本人の状況を知っている人は思わず噴き出してしまう。実は、数日前から歯が痛み出し、かなり強い薬(日本では麻薬扱いで手に入らない)を飲んで痛みを抑えていた。強すぎるからと言われ、半分に割って飲んだものの、酔いが回ったように気持ちが悪い上に、お客さんが霞んで見え、動いていなくても痙攣していた程である。従って、息遣いは倒れずに踊り続けるために普段より荒くなっていたし、痙攣はバランスを保つ為でなくとも続いていたのだ。この批評を読んだとき、私としては最悪でフラフラのAttempting Meditationだったが、息遣いや痙攣がいいイメージを残したことに思わず笑ってしまった。

 カンパニーメンバーとしての活動に加え、2011年には日本で初めての自主公演を主催した。私は表現方法の一つとしてダンスを選んでいるが、その他のアートの形、またアーティストとの共演にも非常に興味がある。2011年は、ことば(ナレーション)とダンスのコラボレーションを、日本の2都市で計3公演した。2012年は、ピアノとダンスの共演で、日本、フランス、スペイン、モルドバ共和国、ルーマニア5カ国の大学を含めた教育機関や公共施設で、計13公演行った。写真2は、子どもたちに一番人気のあった、タップダンスの「Journey~旅~」という作品である。人間離れした動物のような二人が、タップダンスシューズを見つけて音が鳴ることを知り、一緒に森の中を進んでいく作品。互いに身体を持ち上げたり少しアクロバットに動きながら、時には奇声?を発して、会話を重ねる様子を、身体運動のみで表す。自分が大切にしていたり、強く好みがあるもの(私の場合はダンス)を媒体に共同作業をすることは、そう簡単なことではない。しかし、彼女と作品を創りながら練習を重ねたときは特に問題もなくスムーズに事が運んだ。これは、彼女が留学中に同じダンス教育を受けており、使う言語や描写の仕方、作品の組み立て方などが根底で似通っていたからだと思う。改めて、あらゆる分野での教育の力を感じる。

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写真2:「Journey~旅~」 WA ~Dance&Piano~より、2012

 写真3の「生生流転」は、2013年に日本文化啓蒙の一環として在ルーマニア日本大使館より招聘された、書道家山口碧生とのダンスと書道のコラボレーションである。ルーマニア滞在中は、公演に加えてブカレスト市内の5大学で、日本の舞踊と書道のワークショップを提供した。(テレビに取り上げられたパフォーマンスの映像) この作品では、布と紙を用いて、生まれ、生きて、流れて、転ずる(死を連想)という4つの段階をダンスと文字で表現した。写真は、最初の生まれるシーンである。"命どくどく・・・"と書かれている。パフォーマンス当日はもちろん、作品を作っていく過程が何より面白かった。相方は筆、墨、紙を媒体に、私は身体運動を媒体に、同じテーマを其々表現しようと試行錯誤する。普段ダンスのトレーニングを受けている中で自然と偏っているダンサーとしての視点を超えて、視野が広がる瞬間が度々ある。その度に、ああ、私は"踊りたい"のではなく、"表現したい"のだ、その媒体がダンスなのだ、と改めて感じる。表現媒体が増えるとき、表現の厚みが増す。もちろん、その分複雑にはなるが、私が他ジャンルのアーティストとの共演が好きなのは、このボリュームを増した表現の世界が生み出されるからである。

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写真3:「生生流転」ブカレスト、ルーマニア、2013

 他ジャンルアーティストとのコラボレーションでは、2012年の「Merge」(融合・結合)映像とダンスも面白かった。特殊な機械により身体構造を読み込み、身体の動きに合わせて、写真4のように機械が反応し、線の描かれ方が動きと共に変わる。機械が読み込んだ身体の動きが、実際の2つの身体の動きと共に、時間差で映し出され、4つの身体が存在するように見える瞬間もあった。「Merge」というタイトルは、映像とダンスの融合と、映像担当の中国人、日本人の私、もう一人のアメリカ人のダンサーの3人の融合の両者を意味している。コラボレーションは、其々が出来上がったものを提示するのではなく、沢山の議論をしながら少しずつ組み立てていった為、思ったより時間がかかった。お互いの意見を存分に交換し、何かが生み出されるときにはそこに其々のアイディアが入っている、というのが本当のコラボレーションだと私たちは考えていた。

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写真4:「Merge」ロチェスター、アメリカ、2012

 Geomantics Dance Theaterに加えて、もう一つ所属しているダンスカンパニーでは、斬新な作品が多い。ディレクターのEranは、日本の舞踏の影響も強く受け、大変豊かな発想をする。写真は、"Germination"(発芽)という作品で、美術館で公演した。黒いビニールが敷かれた床の上には、大きな木が中央から手前に向かって枝を前後左右に伸ばしている。舞台の奥の木の根元は黒い小さいプールのようなものに繋がり、その中には黒いインクが入っている。観客が会場(美術館)に入ってくると、木の一部を身体に身につけた我々3つの身体がそのプールの中に折り重なっている。徐々に動き始めると、身体中にインクが広がっていくのが分かる。白い衣装と黒いインクが対照的だが、15分ほど後、一番衝撃的なそして私たちにとって最も挑戦的だった場面となる。なんと、顔を上げて立ち上がった瞬間、口の中から黒いインクが出てくるのだ。これは、ハローウィーンなどの仮装のときに使われる食用のインクだが、カプセルを15分ほど口に含んだまま最初のシーンを耐え、立ち上がる前にカプセルを噛んでインクを口に含ませ、カプセルは気づかれないよう外に出す。このインクがなかなかの味で、精神的にも肉体的にも大きな挑戦だった。インクが口から流れ出たた瞬間、観客は息を飲み後ずさりした感じだった。Eranの作品は日常からかなり切り離された作品が多く衝撃的なものが多いが、その独特な世界観の中に哲学も強く表れるため、ファンも多い。以下は公演の批評だが、写真はまさに、口からインクが出た所である。この作品は、Rochester Fringe Festival 2014にて、振付賞を受賞した。

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写真5:「Germination」ロチェスター、アメリカ、2014

その他、子ども向けにスーパーマリオの作品を振付したり、蚊の動きを観察してその特徴を表した作品「Booooon」(蚊の飛ぶ音)の創作など、私自身、創作活動を通してさまざまな世界を旅している。留学先のブロックポート、ロチェスター市から、ニューヨーク市に移ってからは、画家と一緒に、ボディペイントされた身体で踊る、「Mukara~無から~」という作品/プロジェクトも行った。絵は通常色や世界観を紙や平面の上に描くが、人間の身体という3Dでかつ動き続ける場所に移すことで、絵が生きて動き出すような、そんな不思議な世界観を出すことが出来た。 近年は指導に重きを置いた活動をしている私だが、今後も、発想力豊かに作品を創り、踊り、また指導も続けられるよう、違った現場で、様々な角度から身体運動を捉えていきたいと考えている。

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