hekiyou連載
Vol.2「アートを通して英語を学ぶ 」

Vol.2「アートを通して英語を学ぶ 」

私が留学したCollege at Brockportは、66校あるニューヨーク州立大学のひとつだ。学生数7000人程度の中規模の大学で、カナダに近いロチェスター市から車で30分ほどの小さな町に位置している。同じニューヨーク州でも、マンハッタンのあるニューヨーク市からは車で7時間ほどかかり、歩いていると鹿やリスに出会えるくらいの田舎町だった。    

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アメリカサイドから見れるナイアガラの滝までは車で3時間ほど

アメリカでは大学院修士課程以上をと考えていたが、留学当初の英語力では難しく、一年間学部生に混ざって英語を学んだ。留学生が1%しかいないブロックポート校には、英語をサポートするESL(English for Second Language)のクラスは無く、週一回無料で受けられる英語のチューターを特別に毎日お願いしたり、クラスメイトに助けてもらったりして何とか乗り切った。  

最初の一年間、アメリカ人の学部生3人とルームシェアをしたのも良い経験だった。Table, Stove, Refrigerator, Chair, 等と書いた紙を家具に貼ってくれたり、パスタの茹で方を教えてくれたり、彼らなりに一生懸命世話を焼いてくれた。親元から離れたばかりの年下の女の子達だったが、恐らく「外国人であるYukoが何が分からないか」が分からなかったのだと思う。また私もそれを説明できない状況だった。    

大学では、「モダンダンステクニック」「アフリカンダンス/ドラム」「ダンスコンディショニング」「子どものダンス教育」「アートを通した子どもの教育」「パペット演劇」「子どもの音楽教育」等々・・五感をフルに使うクラスを沢山選択した。中でも、「アートを通した子どもの教育」と「子どものダンス教育」を教えていたケビンは、留学生活をサポートし続けてくれた大切な恩師である。今では、大学院時代に企画した国際交流授業を一緒に担当しているが、こちらに関してはまた別の機会にお話したい。   

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以後単語が貼られることになる、
ルームシェアしていた家のキッチン

「アートを通した子どもの教育」では、主要学科(国語・算数・理科・社会)をアートと組み合わせてどのように指導するか、また発展させるかがテーマだった。国語と芸術(ダンス、音楽、演劇)の組み合わせが授業で取り上げられた時、私は自分自身がまさにこの教育法で英語を学んでいることに気が付いた。英語が分からない私にとって、言語を習得していく子どもと同様、五感を使った動きや視覚を伴う学びは大変効果的だった。アートと組み合わせる目的は、子どものやる気を引き出し、創造力を豊かにすることでもある。主要学科が苦手な子どもにとって、それだけに焦点を当てた授業は難しいこともあるだろう。私にとって、ダンスは新しい言語の学びによるストレスを発散できる重要なものでもあった。アートの力で脳の様々なところを刺激しながら、時にはストレスを分散させながら、身体で、心で、より包括的に学べる環境に身を置けたことは、結果的に英語もダンスもより早く深く理解できることになったのではないかと思う。  

また課外のダンス練習は、英語の上達とアメリカ社会に溶け込むのに大変助けになった。ブロックポート校では、一学期に2~3のダンスコンサートがあり、それぞれのコンサートで作品を出したい振付師が、欲しいダンサーをオーディションで選ぶ。ダンサーが決まると作品の練習が始まり、最終的に作品のオーディションを経て実際の舞台に立てるかどうかが決まる。コンサートに向けて放課後や土日に行われた練習では、動きを頼りに振付師が言っていることを必死に理解しようとしながら、大学では聞けない学生たちのフランクな会話にも触れることができた。    

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既存のキャラクターそっくりに作って
成績が低かったパペットに続いて、独創的だと
成績が高かった、マウスパペット"さくら"

ダンスでは舞台に立てば言語は必要ない。もちろんダンスをアカデミックに扱う大学のレベルでは、ダンスについて話ができることが求められるが、それと同様に身体表現力も評価される。ダンス専攻では、非言語コミュニケーションと言語コミュニケーションに価値を置く比率がまさに同等だった。英語ができないので、陽気な私も静かな性格だと思われていたが、それでもダンスに関しては言葉の壁をなしに評価してもらえたので、大変嬉しかった。  

ダンス・身体表現教育に関わる者として、英語の学びにアート、特に身体運動が助けになったこと、また言葉そのもの以外から発せられる"言語"が、人とのコミュニケーションにおいていかに大きなものであるかを知ったこと、さらにそれらを理論的に教育者の立場で、又実践的に子どもの立場で経験できたことで、今後も身体・ダンス教育に価値を置き、その重要性を伝えていきたいという思いを強くした。

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